タ・プローム(Ta Prohm)は、アンコールワットともセットで観光することが多いアンコール遺跡群の1つです。遺跡にガジュマルの木が絡みついているのがとても印象的です。タ・プロームは、映画のロケ地になったこともあり、日本からだけでなく世界中の観光客にとっても訪れてみたい遺跡の1つです。今回は、そんなタ・プロームの歴史・行き方・見どころなどをご紹介していきます。
タ・プロームの歴史
タ・プロームは、12世紀後半に、ジャヤバルマン7世によって建てられました。彼の母を弔うための寺院で、寺院を建てるときには母の彫像も作り、1186年に安置されました。
ジャヤバルマン7世は、アンコール王朝の中でもっとも偉大な王だったと言われています。ジャヤバルマン7世は、チャンパ族(ベトナム)から、アンコールワットを奪還したり、アンコールトムの防御壁や濠、五城門、バイヨン寺院を建てたりしました。どれも、現代に残るものばかりで、ジャヤバルマン7世の能力の高さがうかがえます。
寺院のつくりと当時の様子
タ・プロームには、39か所の祠堂があり、そこには寺院のメインの神様であるプラージュニャパーラミター(般若波羅蜜多)を中心に260の神様たちが祀られています。他にも、タ・プロームは生活必需品の集配所の機能も持っていました。この生活必需品は、王から国内102か所の施療院に寄贈されました。
また、タ・プロームは、東西約1000m、南北約700mの壁に囲まれていて、境内には第一回廊から第三回廊まであります。第一回廊と第二回廊の間には、多くの遺跡が残っており、小寺院や塔などが建っています。その中に僧院もあります。当時、僧院には約5000人ほどの僧侶が住んでいたと言われています。その僧侶を支えるために、周囲の集落で約8万人もの人が働いていたそうです。
寺院の宗教が変わった?
タ・プロームは、当初は仏教寺院として建てられました。しかし、のちにヒンドゥー教寺院に改修されました。それは、ジャヤバルマン7世が亡くなった後に行われた「廃仏毀釈」の運動が影響しています。ジャヤバルマン8世の時代に、それは起こりました。
それまで、ジャヤバルマン7世の時代は大乗仏教が優勢でしたが、ジャヤバルマン8世は違いました。ジャヤバルマン8世は、ヒンドゥー教の主神であるシヴァ神を厚く信仰していました。それが原因で、アンコール王朝では、過激な反仏教運動がおこるようになり、寺院も改修せざるおえなくなりました。
遺跡にはそのときの影響で、仏像が彫られていたところに無理やりリンガ(ヒンドゥー教の象徴)の彫刻を彫ったり、仏教に関わるレリーフや彫刻がなくなっている部分もあります。
ガジュマルが遺跡を破壊している?
タ・プロームと言えば、このガジュマルの根が特徴的です。樹齢300~400年ほどと言われています。アンコール王朝が崩壊してから、1860年に発見されるまで、ガジュマルの一種であるスポアンに寺院は包まれました。スポアンの種は、鳥の糞により、遺跡の屋根部分に運ばれ、スポアンが水と土を求めて、石の間にも根をはるようになりました。よく育ったスポアンの根は、迫力満点です。
一方で、これだけ育った根は、遺跡を破壊しています。一時期は積極的に遺跡修復を行っていましたが、ユネスコなどが、修復に対する考え方について、新しい提案がされました。それが「巨大な樹木は遺跡を破壊しているのか、それとももはや遺跡を支えて共存しているのではないか?」ということでした。
タ・プロームの遺跡の破壊は、内戦や地雷など人災によるものではありません。スポアンによる、あくまで自然による破壊です。遺跡と巨大樹木による神秘的で力強い共存を見守っていきたいです。
映画のロケ地になった遺跡
タ・プロームは、アンジェリーナジョリー主演の「トゥームレイダー」のロケ地でした。2001年制作の映画だったので、当時のカンボジアはまだまだ観光客が少ない時代でした。映画のロケ地になったことで、タ・プロームは一気に注目の遺跡となりました。
また、タ・プロームだけでなく、当時アンジェリーナジョリーが滞在中に通っていたパブストリートにある飲食店も有名になりました。それが「レッドピアノ」です。そんなレッドピアノの名物は、トゥームレイダーという名前のカクテルです。アンジェリーナジョリーがカンボジアに与えた効果は、遺跡やレストランも巻き込んでとても大きなものでした。
このカンボジアでのロケは、主演のアンジェリーナジョリーにも大きな影響を与えていました。このロケをきっかけに、カンボジア人の子どもを養子として育てたり、彼女自身もカンボジア国籍を取得しました。
また、タ・プロームは、「トゥームレイダー」の他にも、「トゥーブラザーズ」という双子のトラの映画のロケ地にもなりました。
タ・プロームへの行き方・入場料
タ・プロームへは、車やトゥクトゥクが便利です。シェムリアップ中心部から約20分ほどで移動することができます。時間がある方や体力に自信のある方は、自転車で回るのもおすすめです。自転車の場合ですと、シェムリアップ中心部から40~50分ほどで行くことができます。
タ・プロームは、アンコールパスで入場することができます。アンコールパスを持っていれば、別途遺跡で入場料を支払う必要はありません。アンコールパスは、現地にチケット売り場があります。ほとんどのツアーではチケット売り場に寄ったり、トゥクトゥクのドライバーさんもはじめにお客さんがアンコールパスを持っているかどうか確認し、持っていなければ立ち寄ってくれる人ばかりです。
パスの種類 | 金額 | 有効期間 |
---|---|---|
1日券 | 37$ | 購入日のみ有効 |
3日券 | 62$ | 購入日より10日間 |
7日券 | 72$ | 購入日より1か月間 |
タ・プロームの見どころ
それでは、タ・プロームの見どころポイントについてご紹介していきます。
遺跡に絡みつくガジュマル
タ・プロームと言えば、この遺跡に絡みつくガジュマルが特徴的です。ガジュマルも一本一本、育ち方が異なります。迫力のある、太い根をもつものもあれば、写真のように細かい根を繊細に張りめぐらせているものもあります。ぜひ、ガジュマルの育ち方の違いにも注目してみると、おもしろいでしょう。
自分の手のひらと比較してみると、どれだけガジュマルの根が大きいか体感することもできます。
また、タ・プロームには、人気の写真撮影スポットがいくつかあります。特に人気なスポットは、東門の内側と、中央祠堂を囲む回廊の西側にあります。タ・プロームは、午前のツアーに組まれていることが多く、午前中は写真撮影スポットに行列ができることもあります。のんびり観光されたい方やじっくり写真を撮りたい方は、午後の観光が、比較的人が少なく、おすすめです。
広大な敷地と回廊
タ・プロームは、先にもお話に出たように、東西1000m、南北700mの壁に囲まれており、実は広い敷地をもつ寺院です。バイヨンと同じように、寺院が完成した後も、後世の王たちにより増改築をくり返した跡が残っています。ガジュマルの根に目を奪われがちですが、このように回廊の中も歩くことができます。
一方でこのように崩れているエリアもあります。ここだけを切り取ると、まるでベンメリアのようです。広い敷地をもつタ・プロームは、ガジュマルの根以外にもいろいろなシーンを見ることができます。
恐竜のようなレリーフ
タ・プロームでは、実は恐竜のようなレリーフを確認することができます。ステゴザウルスに似ています。実際のところ、恐竜として彫られたのかはわかりません。タ・プロームの謎の1つとも言われています。このタ・プロームの恐竜のようなレリーフは人気で、一部ではポーチになって商品化されています。遺跡のレリーフが、ポーチの柄になるなんて、カンボジアならではのお土産ですね。
デヴァター像
タ・プロームでも、ヒンドゥー教の女神、デヴァター像を確認することができます。タ・プロームのデヴァタ―像は、アンコールワットのものと比べて、彼女たちを囲む装飾の彫刻は控えめですが、よりやわらかい表情や豊かな表情をしているものが多いのが特徴です。また保存状態も比較的いいため、デヴァター像がはいているスカートの模様もよく確認することができます。
以前は、このガジュマルの根からのぞく、デヴァター像も見どころの1つでした。ガイドさんに教えてもらわないと、見逃してしまいそうなポイントです。2023年現在は、修復の関係上、この根が取り除かれたそうです。そのため、今ははっきりクリアにデヴァター像を見ることができます。
ロムサイソーの伝説
タ・プローム遺跡【髪の長い女の子の伝説】
— Cambodia Note|カンボジア旅行の魅力を発信🇰🇭 (@CambodiaNote) July 28, 2023
仏教のとある説話の場面を描いたものです。ロムサイソーと呼ばれる女の子が、瞑想しているお釈迦さまを阿修羅から守った、という伝説が残っています。
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タ・プロームの東門の近くでは、ロムサイソーの伝説をモチーフにした彫刻を確認することができます。ロムサイソーの伝説は、昔お釈迦様が瞑想しているときに、阿修羅がその邪魔をしにきました。そこにロムサイソーという名の女の子が登場します。自分の長い髪を使って、池の水を吸い上げました。その水をお釈迦様の周囲に移し、阿修羅が邪魔をできないように、お釈迦様を守ったというお話です。
残念ながら、反仏教運動の影響により、お釈迦様の部分は削り取られていますが、蓮の花の上で髪をしぼる女の子ロムサイソーは残っているので、ぜひ確認してみてください。
アンパンマン?
タ・プロームでは、日本のアニメ「アンパンマン」にそっくりな、レリーフも見ることができます。この柱以外でも、ぱらぱら見かけることができます。小さいレリーフなので、見逃さないように気をつけましょう!
胸をたたくと響く祠堂
タ・プロームの中央祠堂の中でも北東のエリアにあるものは、胸をたたくと、祠堂内で響く、不思議な仕組みになっています。とてもよく響きます。胸をたたいて、悪いもの(病気や邪気など)を出すという考え方のもと、建てられたのではないかと言われています。
タ・プロームホテル
実は、シェムリアップには、「タ・プロームホテル&スパ」というホテルがあります。遺跡からホテルの名前をつけるのは、カンボジアならではですね。1992年オープンの老舗ホテルです。内装は、木を基調としており、クメール文化を感じられるものとなっています。パブストリートやオールドマーケットが徒歩圏内で、抜群の立地です。
タ・プローム周辺情報
タ・プロームでは、東側の入り口には、ちょっとしたマーケットが広がっています。水やジュースなどの水分はそのマーケットで買うことができます。もちろん、お土産のポーチやTシャツも売っています。ただオールドマーケットやナイトマーケットと比べると種類が少ないのと、お土産をもって遺跡観光も大変だと思うので、ここでのお土産購入はあまりおすすめしません。またトイレもあります。
まとめ
タ・プロームは、やはり遺跡と生命力の強さを感じるガジュマルがとても印象的です。一方で、めずらしいレリーフや美しいデヴァター像など、ガジュマル以外にも見どころがつまった遺跡でもあります。遺跡とガジュマルの共存を楽しみながら、タ・プロームでしか見られないレリーフを探し見つけることをおすすめします!
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